■マコの傷跡■

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chapter 51




~ chapter 51 “新しい両親” ~

結婚前から住んでいた旦那の実家に、結婚後もそのまま住んでいた。
家計は別だったが私達と両親との4人が同じ家に住んでいる。
彼の両親は私の両親とは全く違うタイプの人達だった。

お義母さんは天真爛漫で、気取らず、いつも優しかった。
お義母さんの方からは必要以上に接して来ないけれど、
「いつでも下に降りてきて、一緒にお茶でも飲みましょう」と言ってくれていた。
旦那のリアクションの大きい所はきっと母親譲りだ。
お義父さんは必要以上に話をせず、黙って居るけれど存在感のある人だった。
あまり話さないけれど、相談事をすると理にかなった意見をバシっと言ってくれる頼りになる存在でもある。
旦那の芯の強さはきっとお義父さん譲りだ。
こういう両親だから、彼みたいな人が育つのだと思った。
私は自分の親も決して嫌いではないし、もう好きではあるけれど・・・正直、尊敬はしていなかった。
もしも旦那の両親の様な人達に育てられたのなら、もっと違う私に育っただろう。
旦那の様にもっと自分に自信を持てる人に育っていたかもしれない。

お義母さんは顔を合わせるといつも明るく話し掛けてくれるので次第に距離が縮まって行った。
旦那の帰りが遅くて1人でウツウツしている時に下にふらりと降りて行くとお茶を入れてくれ
一緒にお茶をしながら世間話をしていると寂しさが和らいだ。お義母さんの明るさはホッとする。
人に対して正直になる事を覚え始めていたからお義母さんに寂しい気持ちを打ち明けてみた。
そんな私にお義母さんはこう言ってくれた。「待っているっていうのは寂しいものなのよね。
居たからって何してもらう訳じゃないけど、私もお父さんの帰りを待ってる時は寂しくなったりするわ。」
そして冗談っぽく笑って「居れば居たでうるさいんだけどね」と言った。
「何も話さなくても誰かと同じ部屋に一緒に居るだけでホッとする事ってあるじゃない?
つまんない時は下に降りてきて一緒にお茶でも飲みながらテレビでも見てようよ。」

お義母さんとはそうやって安心できる関係が築けたが、お義父さんとはなかなか緊張が解けなかった。
下に降りてもお義父さんしか居ないとどぎまぎしてしまい、逃げるように2階に上がることがほとんどだった。
それはそうされた方としては寂しいものがあるだろう。失礼だとも言える。
お義母さんにも「お義父さんは愛想のない人だけど、まこちゃんからどんどん話しかけてあげてね」と言われていた。

ある日、お義父さんが1人で居る時に思い切って話しかけてみた。
「今までなんだか緊張して、おどおどした態度になっちゃってごめんなさい。
あのね、私は自分にあんまり自信がなくて、いつも人にどう思われてるんだろうって考えるの。
それで余計、普通に接する事が出来なくなってしまう所があるの。
やっぱり好きな人の親には好かれていたいと思うから、だから緊張して上手く話せなくなっちゃってたの。
私は自分の親が嫌いな訳じゃないけど、お義父さんとお義母さんみたいな親の元で育ったら、
きっともっと違った人に育っただろうなって思う。育て直してもらうのは無理だけど
今からでもお義父さんとお義母さんの影響を受けて行けたらなって思う。」
正直にそう言うと、お義父さんは「着飾って付き合ってもいずれわかる事なんだから、そのままでいいんだ。
気を使われてるとこっちも気をつかわなくちゃいけなくなる。
家族間でそんな窮屈な生活しててもしょうがないだろう」と言った。
「悪い事や、嫌だと感じた事はそのまま言う。こっちも嫌だと感じた事はそのまま言うから。
今みたいに、思った事をそのまま伝えてくれればいいんだ。」
お義父さんの言い方はつっけんどんだけど何故か温かみと深い優しさを感じる。

旦那の両親と打ち解けた私に、この家の空気は暖かく心地良かった。
話をしなくても、ただそばに座っていてホッと出来る母親。
いざという時には味方になってもらえる頼れる父親。
無理して笑顔を作らなくても暖かい家。
私はずっとずっと、こんな空気が欲しかったのだ。
もうこの家を出て行く必要なんてなかった。私は旦那の両親が大好きになっていた。
このまま旦那の両親と暮らして、この人達の影響を受けて行きたいと思った。

そうして私には新しい両親が増えた。


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